-懲役太郎 まむしの兄弟-
監督:中島貞夫 出演:菅原文太 川地民夫 川谷拓三
この「まむしの兄弟」シリーズは、ヤクザ映画の中でもB級作品といえるのかもしれません。これはこの「懲役太郎」を最初にして、以下のように続きました。

71年10月「まむしの兄弟お礼参り」
72年2月「まむしの兄弟懲役十三回」
72年8月「まむしの兄弟障害恐喝十八犯」
73年2月「まむしの兄弟刑務所暮し四年半」
73年9月「まむしの兄弟恐喝三億円」
74年3月「まむしの兄弟二人合わせて三十犯」

その他このシリーズの番外編として以下の作品があります。

74年8月「極道vsまむし」
75年3月「まむしと青大将」

この時期は東映が大量にヤクザ映画を作っていた時代ですが、この「まむしの兄弟」はそれほど当たったとはいえないかと思います。
ただ東映にとっては、なんとか鶴田浩二、高倉健と並ぶヤクザヒーローを育てたかったところであり、またかなり違う形のヤクザ像を菅原文太という俳優の中に見いだすことが出来たかと思います。これが、同時期に作られた「人斬り与太」シリーズを経て、そして73年1月封切りの「仁義なき戦い」の文太像に結実されているように思います。

ちょうど75年2月封切りの「仁義の墓場」の主役石川力夫も、本来なら渡哲也ではなく菅原文太であるほうが、東映の流れのなかでは当たり前だったように思います(もっとも渡哲也でよかったわけだが、私は菅原文太の演ずる石川力夫像も見てみたいのだ)。


さてこの「まむしの兄弟」シリーズの第1回作品です。
これまで日活の俳優であった川地民夫が菅原文太の弟分として出てきます。
その川地民夫のいいことったらありません。
なんだか彼はこうして東映のヤクザ映画の、しかもこうしたどうしょうもないチンピラヤクザ役をやると本当に生き生きとしています。

なんだかスクリーンの彼の笑顔を見ていると、とにかく嬉しくなってきてしまいます。

最初刑務所からマサが出てきて、カツが迎えにくるシーンから始まります。
二人は戦後の焼け跡の闇市の中で知り合いました。カツはサーカスで育てられていたようです。そしてそのあといろいろな悪さをして、二人とも前科12犯になっています。
先に出所したカツが兄貴分のマサを出迎えているわけです。
二人とも親も兄弟もいません。この血のつながっていない二人が、どこの組にも属さないで盃交わした義兄弟なわけです。しかし、こうしたことは映画の中で回想シーンがあったりするわけではありません。二人の会話を聞いているなかで判ってくることなのです。

マサは昔孤児ということで施設に入れられていたようです。
貧しい15歳でおでん屋をやっていて、弟と妹二人を見ている女の子とその子たちを施設にいれようとしている婦警にいう言葉がなかなかいいのです。

こいつら、ノラ犬でも集めとるつもりなんや。
施設も少年院も警察も、人間のクズつくるところや。
こいつらから、エサもろたらいかん。
俺らは自分らでやりぬくんや。

マサは今の自分のようになって欲しくないのです。
マサもカツも、レストラン行っても、料理を満足に注文もできません。
カツは何か相手に言われると、判ったふりしてすぐにその言葉の意味をマサに聞きます。マサだってさっぱり判らないのです。
二人は、ちっとも格好よくありません。
ひどい与太者です。ごろつきです。喧嘩だって、健さんのように圧倒的には強くありません。すぐやられて、たたき出されたり、簀巻きにされて川へなげこまれます。

大昔、ある女性とデートでこのシリーズを見たことがあります。

彼女「え、この二人あまり強くないの?」
私「そう…、でも見ててごらん、しつこく強いんだから

というような会話しました。

二人はやられてもやられても、やり返すのです。

竹花組の代貸梅田は「おまんら、なんでそないな無茶さらすね」といいます。本当に無茶苦茶です。ただただしつこく、そのしつこさだけで相手は根を上げてしまいます。そこで、この二人は「まむしの兄弟」といわれることになります。

また彼ら二人の彼女(?)になる二人の女とも、この回で知り合います。
私は、三島ゆり子も女屋実和子も、こうしたヤクザ映画にでていると一番生き生きしているように思います。

東映の役者って、男も女もヤクザ映画に出ているのが一番向いているように思いますね。

七雄会の幹部早崎にはこのしつこい二人も貫禄負けしてしまいます。それで早崎に負けまいと、早崎が背中にしている龍の入れ墨を真似て、大蛇の入れ墨を入れようとします。しかしこの二人は彫物入れるのもあまり格好よくはありません。それが最後になって表われてきます。
この時の彫り師が河野秋武なのですが、私はどうしてか黒沢明「わが青春に悔いなし」の学生服姿の河野を思い浮べてしまい、なんだか不思議な気持になってしまうのです。あの映画での検事となった糸川(河野秋武)は、戦争中原節子に会ったあと、どうしてか流れ流れて彫り師になって、今、こうしてまむしの兄弟に墨を入れているのか、なんて思ってしまうのです。

最後二人は汚い山北組に殴り込みにいきます。
代貸しを山北組に殺された山花組は誰もが逃げてしまいますが、二人は山花組が用意していた殴り込み用のトラックで出かけます。そのトラックの中で、カツがハーモニカを吹きます。

マサ「兄弟! その歌は何ちゅう歌や?」
カツ「何や知らん、ガキの頃よう聞いた歌や。この歌を聞いてるとな、女の顔が見えてくるんや」

(ここでその歌が、女の声で歌われます)

あめのしょしょ ふるんに
からすのまとから とをたちて
まんてつのきんたんの かやろう

あかるのかえるの とうしゅるの
はやくしぇいしい ちめなさい
ちめたらけたもて あかんなしゃい


カツ「もしかしたら、おふくろかもしれんな」
マサ「おふくろけ」


マサもカツも母親を知らないのです。ただこれではっきりしてきます。カツは韓国朝鮮から連れてこられた女性から生まれた子なのです。
でもカツはそのことは判らないでしょう。マサだって判りません。それどころか、映画の中でも何の説明があるわけでもありません。観客だって、ぼんやり見ていたら何も判らないでしょう。

雨と泥の中で、二人は山北組全員と闘います。
とうとうやり抜いて、泥だらけ血だらけで、二人は「これで一緒に13回目の懲役に行こう」と肩を組んで歩いて行きます。
映像は少しも綺麗ではありません。

その二人の肩に雨が強く降り掛かります。泥が流れ落ちます。
だが泥と同時に、彫物の墨も落ちていくのです。実はまだ入れ墨は完成していなかったのです。二人は中途半端なままこの殴り込みになってしまったのです。
でもやらないわけにはいかなかったのです。
その二人のうしろ姿に、また女の声で歌が唄われます。

ああまたたれか たまされた
ごじゅせんきんかと おもうたに
ふりぴんのせんかよ たましゃれた
(萩原周二)

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